こんにちは、もーすけです。 ここ数年、ITコンサル/ITエンジニアとして働く自分にも、技術の領域だけではない横断的な思考が必要かもしれない、と思うことが増えてきました。そんなタイミングで手に取ったのが、山口周さんと深井龍之介さんの『人文知は武器になる』です。
人文知とはなにか
そもそも「人文知」とはなにか。一言で言えば、歴史・哲学・文学・宗教・心理学など、人文科学の知見のことです。自然科学や工学が「どう動くか」「どう作るか」を扱うのに対し、人文知は「人間や社会がどう考え、どう振る舞い、何を大切にしてきたか」を扱う領域、というイメージが近いです。
本書でいう人文知は、教養クイズのような知識の暗記ではありません。過去の人間や組織が直面してきた出来事や思想を通じて、いま起きていることをどう解釈し、どう判断するかの質を上げるための知、という位置づけです。AIの進歩などで「常識」や「正解」が揺らぎやすい時代だからこそ、その必要性が語られています。
なぜ人文知に興味を持ったか
私はレッドハットでITコンサルとして働いていますが、いわゆるITコンサルと言ってもかなり技術寄りです。それでも、現場で顧客と向き合うと、技術だけでは足りない場面が何度もあります。
たとえば、そこにビジネス視点が欠かせない。技術的に正しいだけでは、顧客の意思決定には届かないことがほとんどです。 また、顧客の組織を変えようと思うと、心理学や歴史など、いろんな要素が混じってきます。ツールやプロセスを入れれば終わる、という話ではないんですね。 さらに、顧客の上層部と渡り合おうとすると、世の中のことや経済、歴史など、さまざまに絡み合う話題が出てきます。
おそらく興味を持った一番の理由は、仕事のなかで How(どうやるか)だけでなく、What(なにをやるか)や Why(なぜやるか)を本気で考え、それを提示して推進する ようになってきたからだと思います。 技術の現場にいると、どうしても How に強くなりがちです。でも、提案や変革の話になると、「何のためにやるのか」「そもそも何をやるべきなのか」を自分の言葉で語り、周囲を動かす必要が出てきます。そうなると、技術以外の横断的な視点が自然と欲しくなるのです。
「自分の専門だけ見ていればいい」わけではない、という感覚が、ここ数年で強くなっていました。 そのうえで本書を読むと、まさにそういったことが書いてある、という印象でした。
一方で、こういった人文知を活かせるレベル、活きるレベルのビジネスパーソンは多いのだろうか、とも思います。自分で思うのだから、皆さんも同じように感じているのかもしれません。ただ、数年前の自分に当てはめると、仮にそう思ったとしても、まずは現場の仕事が大事で、「歴史が」とか「経済が」とか言ってもどうしようもない、という時期もありました。
本の概要
本書は、ベストセラー著者の山口周さんと、「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」のMCである深井龍之介さんの初対談です。 先に述べた人文知が、ビジネスパーソンの思考や判断、行動をどう変えるのかが語られています。
端的に言うと、「正解がすぐ手に入る時代だからこそ、問いを立てる力や文脈を読む力が大事になる」という本だと思います。
人文知は、どう効くのか
本書を読んで改めて感じたのは、特定の問題の解決策として、人文知がダイレクトに効くわけではない、ということです。
「この顧客の課題には、歴史のこのエピソードが答えだ」みたいな使い方は、たぶんしないし、できない。 だけど、一歩引いた目線でものごとを捉えられるようになる。私のなかでは、効き方は主に次のふたつだと思っています。
「当たり前」を疑う脱構築の視点(哲学・歴史的アプローチ)
レガシーな組織では、「これまでこうやってきたから」という見えない前提が壁になります。歴史や思想を知っていると、「その商習慣や組織構造は普遍的な真理ではなく、たかだか過去数十年の特定の経済環境が生んだ仮初めの仕組みにすぎない」と、構造化して解体できるようになります。
現場では「常識」のように扱われているものが、実は時代の産物だった、と気づけるかどうか。この視点があると、変革の話を「正しい/正しくない」の応酬ではなく、「前提そのものを問い直す」会話に変えられるのではないかと思います。
抽象概念を翻訳するメタファー力(言語・文学・人類学的アプローチ)
先端技術の導入や組織改革を上層部に納得してもらう際、専門用語の羅列は通じません。 「これはかつて社会が中央集権から分散型に移行したときの力学と同じです」「この組織の痛みは、軍隊が近代戦に適応する過程の摩擦に似ています」といった、相手が持っているメンタルモデルに引き戻して説明できる人は、圧倒的な説得力を持ちます。
技術の現場にいると、どうしても「どう実装するか」「どう直すか」に目が行きがちです。それは大事なんですが、組織や事業の話になると、同じ解像度・同じ言葉では話が噛み合わないことがあります。人文知は、その解像度を一段上げ、相手の言葉に翻訳するためのレンズ、というイメージが近いです。
人文知の学び方
人文知といっても範囲は膨大です。教科書を読むみたいな勉強は、たぶん難しい(少なくとも私には続きません)。
本書からも参考になるのは、自分の興味を持ったテーマで、横断的に見ていくという学び方です。
たとえば、私の場合は究極的ですが「幸せとはなにか?」という問いです。自分の幸せや、働く人の幸せ。アドラー心理学であったり、歴史から紐解くその時代の幸せを考えたり。ひとつの問いを軸に、心理学や歴史など複数の領域を横断していくイメージです。
「教養として全部押さえる」のではなく、「自分が気になっている問い」から入る。そのほうが、仕事や日常の中でも自然に使える知識になっていくのではないかと思います。
読んで面白かったこと(備忘録)
本書のなかで、個人的に印象に残ったエピソードもメモしておきます。
ひとつは、深井さんの学び方です。キリスト教の聖書を、専門家を呼んで、マタイの福音書を1行ずつ精読しているとのこと。こういうレベルの人も、こういう地道なことをするんだなあ、と思いました。
もうひとつは、「土地勘」の話です。ある分野を勉強するときに、初心者向けと応用向けの両方など複数の本を読んで、その領域の土地勘を知る。さらに全体像を掴むために、図書館や本屋に足を運んで、どんなジャンルのどんな本があるかをだんだんわかっていく──という考え方です。
これは自分も実践していることで、定期的にかならず本屋に行き、いろんなジャンルの陳列棚を眺めながら、なんとなくの土地勘を把握していました。改めて言語化されると、「ああ、あれはそういうことだったのか」と腹落ちしました。
まとめ
『人文知は武器になる』は、技術や業務の専門性だけでは届かない場面が増えてきたビジネスパーソンにとって、考えるきっかけをくれる一冊でした。
人文知は、目の前のチケットを閉じるための武器ではありません。でも、一歩引いて物事を見るための武器にはなり得ます。興味のあるテーマから、ゆるく横断的に学んでいく──そんなスタンスで、私も続けていきたいと思います。
ぜひ手にとってみてください。それでは!
